答えのない世界を生きる
フランス在住の社会心理学者、小坂井敏晶さんの半自伝的叙述。
小坂井さんの見識と半生が交互に綴られる。
批判的かつ客観的な、鋭利な視線が社会を事実に肉薄した気迫で切り取り、言葉に変えるその筆致は、真剣な顔で読むことを自然に律される。知に開かれた大学人は、このようにあることがいかに大切かも感じることができる。
「自らの実存に無関係なテーマで人文学の研究はできない。」
「既存の価値観に沿った結論が最初に選ばれる。そして結論に応じて検討する情報領域が絞られる。」
「矛盾はまさしく、従来の理論に問題があると示唆している。」
「世界が同一構造の繰り返しになっているから型が有効なのではない。人間の思考パタン、世界を理解するためのカテゴリーが限られているからだ。」
「本当に欲しなければ、何も身につかない。」
「学ぶものの世界観を変えられなければ、授業などいらない。」
「思想界を掻き回す野獣を育てるには、彼らを圧倒する猛獣にまず自分がならなければならない。現場の真っ只中で闘う戦士の姿を見せて、常識に挑戦してあんなことをしても大丈夫だという自信を弟子に身につけさせる。師への信頼が弟子の勇気を奮い立たせる。」
「客観的で公平な評価方法は質よりも量を重視し、常識を疑う少数派の金脈を潰す。」
「開かれた社会とは、社会内に生まれる逸脱者の正否を当該社会の論理では決められないという意味である。」
「創造的個性が出現するためには、その時代にとって価値のない犯罪者の個性も発現可能でなければならない。」
「大学で学ぶ最も大切なことは、考えることの意味を問い直すこと。学部の選択などどうでも良い。どの学部の知識も、それ自体は役に立たない。人間の原理的な限界に気づく、それ以外のことは重要ではない。」
「人種差別や第三世界の貧困は本当に俺の問題なのか。他人の批判をする前に、自分の存在をもっと掘り下げろ。」
「広く浅くよりも狭く深くとよく言われる。しかしそのどちらでもない。自分が疑問に思ったことはそれが解明されるまでどこまでも追求する。」
「世界は不平等だ。才能は不公平だ。だから、限られた可能性の中で自分の道を見つけるしかない。」
「人間は責任を負う必要があるからその結果自分を自由だと思い込む。自由だから責任が発生するのではない。逆に、我々は責任者を見つけなければならないから、つまり事件のけじめをつける必要があるから、行為者を自由だと社会が宣言するのだ。」
「美醜、才能、幸福には原因がある。だが、その原因には必ずその原因があり、因果関係の連鎖はいつまでも続く。最初から不公平な不公平な競争に人間は投げ入れられている。」
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