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出口治明氏の世界史通史読本。

圧倒的な文献量に裏打ちされた通史本。冒頭1400年から2015年までを一気に概観する。この本はひとつひとつの歴史的事象を追っていくには不向きだが、世界全体の動向の感覚を同時系列で掴むことにおいては相当な密度の本である。

何より参考文献の量がケタ違いで、記述に対する信頼性が相当なレベルで担保されているのがありがたい。

いつ読み返しても良い一冊。

療育関係の入門書とも言えるべき一冊。


発達障害や遺伝性疾患を抱えた子ども、特に療育施設や福祉施設などと連携する必要のある子どもとの関わり方や心の持ち方、福祉への繋げ方などを非常に平易な言葉で解説してくれている。


どちらかというと親向けであり、科学的などうこう、といった話ではない。

辻村深月氏の小説。

不登校の中学生たちが主人公の小説で、下巻から若干ミステリー味がある。


主人公の女の子が鏡の中の世界と現実の世界を行き来しながら、他の子の素性をだんだんと知っていったり、現実の自分を取り巻く状況の変化に立ち向かっていったりする。

学校に行かなくなった子が、どのような心境で親や先生、友達と向き合うのかが克明に描かれ、読む者に一定の緊張感を与えている。子どもにも大人にも響く物語である。


何気なく進んでいた物語の、実はそこかしこに伏線が張られていて、それが終盤にかけて一気に回収されていく。


教員として、いかに子どもと接するべきかを考えさせられる一冊でもある。

わりと多くの人がよく知らないままでいる植物体内の生存機構を、網羅的に解説してくれる一冊。高校レベル+大学学部生レベルの情報をわかりやすく得ることができるので、非常に入門書として、植物を概観するためにちょうど良い。


動かないでいる植物が生存していくために、体内で多くの機構を駆動させていることがよくわかり、面白い。


非常におすすめな一冊。

医師である著者が、タイトルの通り、これから科学という世界に足を踏み入れる若者たちに向けて書いた科学史。全40章に渡って物理化学生物地学を概観していく。


医師が書いたからといって医学に内容が偏ることなく、それぞれの分野における「視点の変革」をある程度の基準として平易な言葉で歴史を記述していく。


これまでに読んだどの科学史の本よりもフラットで読みやすく、また書き味も、科学の楽しさを味わえるものとなっている。

静かで良い一冊である。

イギリスの学校教育アドバイザーとして公官庁からも声がかかることもあるポール氏が、自身の教師時代の経験も混ぜながら、子どもの指導の受け入れ方について実践的、具体的、現実的に書いてくれている本。


タイトルの通り、子どもが罰から学ぶことがないのはなぜかであったり、教員が陥りがちな指導に対する誤謬などをわかりやすく解説してくれる。


福祉レベルまで含めた、どの教育レベルにおいても通じるような根底理念について書かれているため、もはや子育てについても参考になるレベル。

一つ上のレベルの教員を目指すなら、必読の一冊である。

かなり古い時代、1937年に書かれた物語。

写真の表表紙はそれをコミカライズされたもの。おそらく多くの人にはこの表紙の方が印象深い。


銀行員であった父を亡くした少年が、学校生活や叔父さんとの対話の中で世の中のあらゆる不可思議な点について興味を持ち、その疑問を博識な叔父が優しい着地までそっと導いてくれる構成となっている。


一言で言えば教養児童文学だが、過去に公教育で行われていた「修身」に近い雰囲気がある。年齢を問わず、誰の心にも響く可能性を秘めた一冊である。

集団の中で、周囲と違う人間だということが露見してしまうことを極端に恐れるがあまり、何も自分で決めることができなくなってしまっている現代の若者たち。(2022発刊)

そんな彼らの生態や起源について触れながら、分析を重ねていく一冊。


非常にシニカルな本でもある。実際に30歳よりも若い人が読んだら、嫌な気分がするかもしれない。あまりに率直すぎる書き方がここにはある。


ワークライフバランスの意味が「がむしゃらに働いたり、人並み以上に努力したりしないこと。また、その努力を軽蔑すること」になっている若者。大人たちはそれにどう立ち向かって行けばいいのか。若者は「待っていれば大人が焦り出して結局なんとかする」ことを知っている。

若者は年上の打算に敏感だ。そのために若者はそれに乗っからないという態度に出るが、それは両者とも損、という状況である。そのような若者は社会に出てすぐに圧倒されてしまう上に、自分の人生すら決められなくなってしまっているからだ。

どうするか。

若者は、大人が「どうするか」と悩んでくれるのを待っている。

橋爪大三郎先生の入門書。


社会学という、人間社会を切ることなく丸ごと学問するという領域について述べられている。


言語、戦争、憲法、性、家族、私有財産、自由、職業、、など、社会を構成するあらゆる要素について平易な言葉で構造的な形式で解説してくれている。


人間社会がどうできているのかが知りたかったり、これから社会に出ていく人たちにとって、この上なく優しい導きとなる一冊でもあり、大人たちが社会を曇りのないレンズで見直すにもちょうどいい一冊。

本書はタイトルそのままのような、カウンセリングの「テクニック」に系統した、インスタントでお手軽な内容の本ではない。


むしろ、「一時間くらいの時間でしか相手から相談を受けられないとき、どのような対応ができると相手のためになるのか」をテーマにしながら、相手を勇気づけるという行為の骨子、構造を分析していく本である。

決して相談してくれた相手をラクに元気付けるマル秘テク、みたいな意味ではない。(それにしてはタイトルがそう読めるように作られているのが、資本主義でものを出版するところの難しさを感じさせる。)


よく傾聴、共感、などといった言葉で人の話を聞くことのポイントが説明されるが、それが実際にはどういう構造になっていてどういう効き方をしていくのかを実用的なレベルで細分化して伝えてくれる一冊である。

現代人は、豊かであるはずなのに退屈する。

欲しいものを手に入れても、きちんと退屈してしまう。

ヒトとって最も辛い感情が「退屈」であり、それを紛らわすためなら、僕らはなんだってする。


そのような退屈について、哲学からの分析を試みる、現代人必読の一冊である。


暇の分析や退屈の分析に始まり、豊かさとは何かの論考、暇についての考察など、思考は多岐に渡り、仔細に進んでいく。


飽きることのない豊かさとは何か。

退屈に対する適切な処しかた。

我々が目指す、現代を生きる姿とは何か。


人生の、ヒトとしての核心に迫る一冊である。

タイトルのように、ヒトの持つ様々な能力は、どのくらい遺伝によって決定されるものなのかを明らかにしようとした一冊。


まずは能力の定義に始まり、またそれが非常に社会的な要素を含むものであることにも触れながら、実際の研究結果について語られていく。


よくある「能力か環境か」という安直な二元論を決定するような議論ではなく、「遺伝の結果、生活においてどのような表現形となりうるか」を主眼に考察を進めていく。


実際に現実的な側面もきちんと語られるが、ここで安易に要旨を書いてしまうと誤解をする人が多くなることが予想されるので、あえて触れないでおくが、遺伝というものは確かにある。だが、全てが決まるわけではなく、当然ながら、それがヒトの運命を決定づけるには、遺伝という要素はとても小さいことが研究からも示されている。