言語の本質
慶應大学言語研究者で有名な今井むつみ氏の力のこもった質の高い一冊。
本書は多くの言語学者がこぞって登ろうとする「言語の本質とは何か」という問いに対して、「オノマトペ」という言語分野を端に登頂を目指すものである。
キーワードはオノマトペ、記号接地問題、アブダクション推論など。
音声がある程度共通したイメージをヒト全般もたらす音象徴という要素をもつオノマトペが言語が感覚に接地する橋渡しの役割を担う。
しかし言語は似た概念を異なる言葉で表す時、ある程度言葉の要素同士に距離がないと混同しやすくなり認知負荷が高くなるという構造も持っている。つまり似た要素を表す言葉同士は、全然違う言葉である方がわかりやすいのだ。(カラスとハトの名前がそれぞれ「カー」と「ホー」だと覚えにくい)
この二つの問題を間を埋めるものは何か。それを考えていくうちにヒトとその他の動物が持つ知性の違いに論が移り、結果として言語がどのようにして今の言語体系に成っているかにつながり、気がつけば現象を音として切り出すオノマトペから現在の言語体系までが大筋の道のりとして浮かび上がってくる、そんな作品である。
言葉遣いや論の展開が易しく書かれているため、とても読みやすい(今井先生の本はいつもそう)。また、書中に多くのアイデアが現れるので、言語以外の分野に関してもとても良い刺激になる。
バリューブックスなどで安価に手に入るので、ぜひ手に取ってみては。
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